哲学心理コンサルティング
正解のない時代
未知の経営的判断が求められるようになっています。
「正解のない時代」に突入したことで、グーグルやアップルなど多くの世界的企業が専属の哲学者を抱える企業も出始めています。
「ビジネスに哲学・心理学を活用する」とはどういうことなのか?
世界的には「哲学心理学コンサルティング」の導入が急速に広がっています。
哲学心理学コンサルティングとは、哲学的・心理学的な知見や思考法、態度や対話をなんらかの仕方でビジネスや組織運営に応用することです。
例えばスカイプやツイッター、フェイスブックは、哲学者アンドリュー・タガードが設立したアスコルという哲学コンサルティング企業のクライアントです。
グーグルやアップルはインハウス・フィロソファー=企業専属哲学者をフルタイムで雇っています。経営会議をより本質的なものへと導き、経営者へ直接助言を与えることから、CEOなどと並ぶ呼称としてCPO(Chief Philosophy Officer=最高哲学責任者)と呼ばれます。
企業理念や倫理規定の策定と実行、社員間のコミュニケーションの改善、チームビルディング、社員の哲学的思考法の養成など、その適用範囲は広範に及びます。
例えば「どうすれば私はもっと成功できるだろうか」と考えている幹部に対して、哲学者が「なぜ成功しなくてはならないのか」「そもそも成功とはなにか」などと問いを投げかけることで、先入観を取り除いたり、新しい視点を得るのを助けたりするのです。
オランダにはニュートリビューム、ドイツにはプロイェクト・フィロゾフィという哲学コンサルティング企業があります。
なぜいまビジネスに哲学が求められているのでしょうか?
理由は大きく二つあると思います。
一つは、従来のメソッドが通用しなくなっていることです。
従来通りのメソッドだけでは、人々がなにを求めているのか、もはや分からなくなっています。そもそもなにが問題なのかも、どうすればその問題を解決できるのかも見えにくくなっています。
もう一つは、未来に向けてなにをなすべきか、なにを達成したら成功なのかも分からなくなっていることがあります。今回の新型コロナウイルス感染症がまさにそうですが、ビジネスのルールが変わってしまったらまったく意味をなしません。
グローバル化が進む中で、価値観はどんどん多様化・細分化しています。
現在は、【答えのない問いと向き合うこと】が強く求められています。
「自社はなにをなすべきなのか、なすべきではないのか」「なぜその事業を展開するのか」といったことを突き詰めるのに哲学や心理学の洞察が役立つと考えています。
哲学や心理学の教養がこれからのビジネスパーソンには必須で、ビジネスや日々の悩みに答えを与えてくれます。
発想を広げる
問いの力で議論を意図的に思い込みを崩し、発想を広げる
欧米の哲学コンサルティングは、企業・経営理念の構築や根拠づけ、倫理規定・コンプライアンス策定といった経営レベルのものが多いのに対して、日本の場合はコンセプトメイキングやマーケティングリサーチ、アイデアワーク、人材育成・社員研修など、もう少し実用レベル、プロジェクトレベルの依頼を受けることが多いです。
例えば、「自発的・積極的に働いてくれないし、すぐに辞めてしまう」こうした悩みを抱える企業から「若い社員にもっと長く働いてもらえるようにしてほしい」「社員同士のコミュニケーションをもっと活発にしてほしい」といった形でしばしば依頼されます。
持ち込まれた課題に対していきなり答えを出そうとしてもうまくいきません。
そもそもの課題設定が間違っていることが多いからです。
そのため、こうした依頼が持ち込まれた時にはまず、そもそもの課題設定を問い直すことから始めます。
「若い人にどうやって将来のビジョンを持たせるか」「同じ会社でどうやって働き続けてもらうか」といった最初の課題設定は間違っていたということです。
若い人の価値観に合わせるなら、解くべき課題は「いかにして短い期間で成長を実感できるような職場環境を作れるか」「同じ会社内でも、いろいろな仕事や体験ができるようにするにはどうしたらいいか」。そうした課題設定で社員研修なり職場環境なりを改善したほうが成果が出るはずと分かります。
特に、複数人による対話によってそれを行うことで、本人も気づいていなかった新たな視点が引き出されるのです。
議論というのは、完全に野放しにすると拡散してしまってまとまりを得ません。逆に、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングを使ってすべて論理的・合理的に進めてしまっても、あるフレームの中で発想することになって斬新なアイデアは生まれません。
言ってみれば、自然を生かしつつ整えるに近いイメージです。
問いの力をうまく使いながら発散と収束を繰り返すことで、新しいインサイトの発見へと導く。問題発見であると同時に問題解決にもなっているというわけです。
「問い」を軸にしたファシリテーションは、実は哲学や心理学科の出身者からしたら普通のことです。
具体的にどうするのか?
具体的にはどうするのか?
まずは場の設計をします。
哲学心理学シンキングではすべての参加者がフラットな関係で議論・対話できる必要があるため、実際に議論・対話を始める前に準備をします。
その上で、ステップ1としてまず行うのは「問いを集める」こと。
哲学心理学シンキングでは答えではなく問いを集めることから始めます。
「お互いに問いかけ合うようにしましょう」と促します。
「いいことをしよう」という訴求の仕方から、「この課題を一緒に解決しましょう」といったビジョナリーな訴求の仕方に変えていくという結論につながっていきます。
哲学心理学シンキングでは問いに問いを重ねることで議論を進めていくこと、また問いをグループ化し、それぞれについて議論することにより、固定的な観念体系を破壊し、誰もが新たな問いや発見を成果として得られるようにデザインされています。
いま求められる「答えのない問いに向き合い続ける」覚悟
なぜ日本では哲学の理解や活用が遅れているのでしょうか。
逆に言えば、なぜ欧米人はいち早く「問い」の重要性に気づけたのでしょうか。
「欧米のほうが哲学や心理学の本場だから」というのが大きいのではないでしょうか。
例えばフランスでは高校生から哲学している。
一般人の間で哲学への理解がもともとあります。
日本人の多くが誰かの言葉を鵜呑みにしてしまい、「なぜそう言えるのか」「上司はこう言っているが、本当にそれは正しいのか」と問い続けることができないのは、おそらく教育に由来している気がします。
日本の小中高校の教育は覚える教育。決まった答えを見つけることに終始していて、問いを封じられてしまっています。
管理職にいま求められているのは、答えを押しつけることではなく、答えの見えない問いと向き合い続けること。
そのことがまた、次の世代の問う力を育むことにもなります。

